先日のヤマサ醤油さまご登壇セミナーのパネルディスカッション内容を記事にしました。ポイントごとにまとめました。
食品や調味料メーカーのファンとの関わり方について、実務のかなり詳しいお話までしていただいています。
生活者の声を活用する上で大事なポイントや、社内の動かし方など、ヤマサ醤油様の取り組み事例がご参考となりましたら幸いです!
【もくじ】
1.ファンづくりの考え方について ←今ここ
2.具体的な施策内容について
3.事例・指標について
4.実務上のTIPSなど
■講師紹介
ヤマサ醤油株式会社 マーケティング部 部長
藤村 功 様
ヤマサ醤油株式会社 マーケティング部 商品企画室
「ぱぱっとちゃんとこれ!うま!!つゆ」ご担当
松倉 公平 様
ヴァズ株式会社 事業開発マネージャー
阿部 樹
1.ファンづくりの考え方について
「ファンエンジェルユーザー」に重点を置くようになった背景
主婦モニターが、いつの間にか社内よりも味方になっていた!
ヤマサ醤油・藤村様(以下、藤):まずひとつ目は、私が30年前商品開発の部署にいたときに、お客様に商品を買った理由を聞くと「人に薦められたから」というのがだいたい1位になっていたから。
そして、ふたつ目は、同じ時期に主婦モニター約20名に新商品のグループインタビューを行っていたんですが、続けるうちにファン化していったということがありました。3ヶ月くらい続けていると評価がどんどん甘くなっていって(笑)
試しに、絶対ダメそうな試作品をわざと出してみたところ、5秒くらい「う~~~ん。。。」と間があった結果、「買いたいです!」という反応で。モニターとしては参考にならなくなったんですが、社内の営業よりもヤマサの味方になっちゃったわけです。
そういう経験からの下地があったんですね、私の心の中で。
新商品ヒットの実態は、10年来の「エンジェル化戦略」が花開いた結果
藤:その時に、10年来のネットマーケティング指南役である株式会社ワールドカフェの笠原さんから、こういう考え方した方がいいよ、とこういう図をもらいました。
要は、収益性と推奨度の両方が高い「エンジェル」という人たちをいっぱい作って、その人達に奨めてもらって、買ってもらってっていうサイクルのマーケティングをやっていかなきゃいけないという図です。そういう流れで、笠原さんからスナップディッシュさんもご紹介いただきました。
そこからブレなかったのがようやく花開いた、というのが今回の新商品ヒットの実態じゃないかなと、私は思っています。
ファンを重視する考え方、どうやって社内浸透させていったか
社内浸透して、開発体制も変化。今ではユーザーの声からゴールを置くように。
ヴァズ・阿部(以下、阿):背景には藤村さんのご経験があったということですが、社内にファンを重視する考え方を浸透させていくのは大変だったと思います。どうやってされたんでしょう?
藤:いつもの開発プロセスだと、うちはプロダクトマネージャー制をとっていないので、商品開発部署が新商品を出したら、それをどう宣伝するか、販促するか、上流から降りてくる感じだったんです。
でも、今回は最初からマーケが中心で、営業も入って、プロジェクトでやってました。松倉は、実はそこで悩んじゃってたわけですね。
その時に、1回スナップディッシュさんで座談会をやってみて「生の声」を聞いてみようと私から助言したのがスタートです。
それから開発体制も変わってきて、最初からユーザーさんの声を聞いて、ゴールを決めて作っていこうとしてます。だんだんそういう流れがようやく浸透してきたかなという感じですね。やっぱり成功しないと浸透しませんよね。
阿:30年前の体験がきっかけになって、ここ10年くらいの積み重ねがあって、だんだん花開いてきたという感じですね。松倉さんも「ファンベース」は知らなかったとおっしゃってましたもんね。
ヤマサ醤油・松倉様(以下、松):そうですね、なんとなくイメージはついても、それが自分の中ではわかるようでわからないというか、それでどう売上につながるのか、とか考えちゃうと、はじめはちょっと分からなかったですね。でもこの1年やってきたことが、すごく勉強になりました。
ファンマーケティングの役割や位置づけ
ファンマーケティングでも売上利益という結果が出ないと厳しい
阿:ファンを大事にするとどういう風に役に立つのか、ピンと来ない方って実は結構多いです。特にヤマサさんはマスのCMもやってらっしゃる中で、マスマーケティングとファンマーケティングをそれぞれをどう位置づけてらっしゃいますか?
藤:最近、エステーのマーケティング担当執行役員だった、有名な鹿毛さんという方がFacebookでこういうことを書かれてるんですね。
今日、ソーシャルとか、ファンマーケティングをやっている部下が「それは売り上げを上げるためにやっているのですか?」と質問された。
で、「なーにも考えてません』とすっとんきょうに答えたらしい。笑
いや、もちろん彼女だって考えてるけど、笑い飛ばした?らしいから、お見事!
では、会社としては考えてるのか?考えているのか???少なくとも、私は、考えていないわけがないよね。だって私の会社から要求されるkpiはプロセスではなく、売上と利益という『結果』だけなんですよね。厳しい!!!
藤:ファンマーケティングで売上を伸ばすことを会社として考えているのか、と。鹿毛さんはもちろん執行役員なので、プロセスじゃなくて売上利益という結果が出ないと、マーケティングって費用がかかるだけに最終的には厳しいです。
ファンマーケティングは風を起こす「うちわ」
このファンマーケティングとかソーシャルって、例えばバーベキューの炭に火を起こすために風をおこす『うちわ』だったりする。
炭をしっかり組み立て(マーケティング施策とストーリーづくり)焼肉を用意し(例えばエステーで言えば、流通さまと商談し、配荷してそこに商品が並べられて)、価格戦略やプロモーション(販促)も準備されていて、スタートしていて。あとは、売るだけ!という体制をととのえて、コミュニケーション投資にうつります。
その上で火をつける。
火は、キャンペーンスタートの号令です。
号令を本物にするためには、さまざまなエネルギーが必要。そのうちのひとつが、火を起こすための風、風を起こすためのウチワになる。
そうすると、ウチワの担当者は、一生懸命ウチワので風を起こすことだけを考えれば良い。そして、成功体験で、こうやって火がつき、炭が良い状態になって、美味しいバーベキューに変わるんだ、つまり売上につながるんだ!という成功体験をすれば良い、とおもいます。それは、理論を超えた体験で知識を超えた体験は、知恵になる。
藤:そのファンマーケティングって何かというと、ここにあるように風を起こす「うちわ」ですね。今回松倉の内部の火を消すことにならなくてよかったですね、逆に燃えてくれて。うまく松倉の中のマグマが火になって、宣伝担当もプロモーションも営業もバイヤーも動かして、お客さんも最初に動いていただいて、お客さんからも火をつけてくれたのでうまくいったと思います。
結局のところ、成功体験なんですよ。これは数字じゃないと思ってて、「本当にやってよかったな」っていう実感が本当の成功体験で、大事なことだと私は思ってます。
そうは言っても、会社を説得するには数値がいるので、次はKPIについてです。
重視するKPIと調査データの見方
定量調査では、購入意向のトップ1を重視
藤:私は「ぜひ購入したい」という購入意向のトップ1を大事にしています。30年前のマーケティング・リサーチセミナーでは、「ぜひ購入したい」から「絶対購入したくない」の5段階だったんです。当時は「ぜひ購入したい」が15%必要、「購入したい」が50%必要、合わせて65%あれば売れるというのが定説でした。
でも最近のよくあるブランドリフト調査では、甘く出したいがためにトップ1の「ぜひ」が取れちゃってるんです。「購入したい」「どちらかというと購入したい」を足すと85%とか90%行くんですよ。それでみんな間違っちゃっていると思うんですよね。ですから、私は今でも必ずリサーチを入れる時は「ぜひ購入したい」を見るようにしてます。
出所)NRIシングルソースデータ インサイトシグナル
藤:上のグラフは「絹しょうゆ」という商品の大規模なメディア接触による前後の調査結果なんですが、テレビの方は接触前のトップ1「ぜひ購入したい」が4.6%しかなくて低いんです、まあそれはそうですよね。醤油に興味がない人にも接触してますから。で、テレビCMを見た後は7.9%と3%上がってます。これは効果あるよねと判断できます。
出所)NRIシングルソースデータ インサイトシグナル
藤:こちらは食系のメディアの比較です。右のスナップディッシュさんでは「事前」の時にすでに告知していたので最初から37.9%と高いんですけど、それでもめちゃくちゃ高いですよね!10%で合格のところが37.9%で、さらに事後でも40%で増えていると。
左の大手レシピサイトでも、食品に興味のある方が使っていて非常に高い効果が出てますが、スナップディッシュさんと比べると15ptくらい差があるっていうのがファンベースの力の実際のところじゃないかなと見ています。
あとですね、最近はNPSをアンケートに入れるようにしてるんですけど、どういう数値が合格なのかまだわかってないので、これはこれでナレッジとしてためていこうと思ってます。
最後は「自分の心で聴く」しかない、それは定性調査の方。
阿:ありがとうございます。やや実務的な質問になりますが、毎回必ずこのような調査をされているわけではないですよね?
藤:はい、そうです。お金かかりますしね(笑)いただいた質問で、「定量調査と定性調査の結果が反対の時に、どっちをとりますか」っていうのがあって良い質問だなと思いました。答えは、正直いうと「自分の心で聴く」しかないんですね。
私はあんまり定量調査って信じてません。だいたい定量調査って迷った時にやるんですが、迷った時の調査結果って「A案とB案どっちがいいかな」って調査すると、よくても60:40とかね、55:45なんですよ。それって実は、いくらネット調査でN数を増やしても、誤差範囲でどっちでもいいってことなんですよね。
鹿毛さんから以前「藤村君ね、調査とかどうしてる?」って言われたことがあって。例えで言われたのが、こんなことでした。
「藤村さんが理想の結婚相手を探すとして、好みは?って聞かれたときに、背は自分より低い方がいい、とかで条件を絞って定量調査かけると候補が10人くらいに絞られてくる。それでも最後は、その人と話して決めるでしょ?」
これって定性調査の方だと思ってて、ファンベースってそこだと思うんですよ。実際に生の声でお客様と話して松倉の心に響くものがあれば、それが自信になって商品の必要条件に組み込まれていくっていうことだと思うんです。だから、私はどちらかといえば定性調査の方を見るようにしていて、毎回は定量調査をやらないということです。
ヴァズ・阿部:ありがとうございます。いただいていたご質問の中で考え方的な部分をお答えいただいたので、次は実務的なこともお聞きしていきたいと思います。
2(具体的な施策内容について)へ続く!
1.ファンづくりの考え方について ←今ここ
2.具体的な施策内容について
3.事例・指標について
4.実務上のTIPSなど